中国の企業って、情報が少ないですよね。そもそも企業名自体を知らないところも多いし、競合他社も全く聞いたことがない企業ばかりだという事も多いです。
いざ調べてみようと思っても、どこで調べたらいいのか分からなかったり、そもそものデータすら見当たらない事も多々あります。米国株に比べると近く遠い国なんですよね、中国って。
業界最大手企業でも知らない名前のところがあるよね
中国企業の知名度は圧倒的に低いですよね
さて、今回は先日のブログ記事でご紹介した農夫山泉について少し詳しくみていきたいと思います。
まずは、農夫山泉の基本情報
私が今中国株で一番注目している銘柄といえば、前回のブログ記事でお伝えした「農夫山泉(ノンフ・スプリング)」という企業になります。
この企業は中国では非常に有名な企業なのですが、日本では全くの無名な企業だと思います。なので、まずは農夫山泉という企業についての基本的な情報からみていきましょう。
聞いたことのない企業だね
中国ではスーパーやコンビニなどでもよく見かけるよ
農夫山泉は、パッケージ飲料水や飲料事業を行う企業です。創業は1996年と比較的新しい企業であり、創業してまだ26年ですが、すでにミネラルウォーター市場ではリーディングカンパニーとなっています。
ミネラルウォーターやお茶系の飲み物、果汁ジュースなどを製造・販売している企業となります。ミネラルウォーター市場(飲料水市場)では中国で最大手であり、ミネラルウォーター市場のシェアは20%を占めています。農夫山泉のミネラルウォーターは赤いラベルになっており、中国全土のスーパー・コンビニで手軽に見かける事が出来る国民的飲料水です。茶系飲料、機能性飲料、果汁飲料でも市場シェアは中国市場のトップ3にランクインしています。
創業以来、「ナチュラル&ヘルシー」をブランドコンセプトとしており、自然で健康的というコンセプトの下でペットボトル飲料水の製造に水道水を一切使用せず、飲料水には人工のミネラルを一切添加していません。 高品質の天然水を継続的に供給するために、中国国内の希少で高品質の天然水源を戦略的に10ヶ所確保しており、消費者に長期的な自然健康サービスを提供するための基盤と能力を築き、長期的かつ安定した競争優位性を形成しています。
自社のジュースに使う原材料の品質を高める為に「良い果物は育つ」という理念の下で、自社栽培も行っています。江西省ではネーブルオレンジ・新疆ウイグル自治区はリンゴを栽培しています。
中国全土に確立された販売網を保有しており、全国4,000社以上の代理店と1万人以上の営業担当・販売管理者にモバイル端末を導入して販売管理を行い、ビックデーター分析システムによる在庫管理にて業務効率化を図っています。
社会福祉にも力を入れており、中国において大規模な災害が起こる度に支援を行い、また貧困地域の学校のスポーツ施設整備でも支援を行っています。農夫山泉は公益活動を社会的責任と位置づけています。(このあたりは、中国当局の共同富裕という方針に従っているという事のアピールなのでしょうね)
中国のミネラルウォーター市場(飲料水市場)
中国のミネラルウォーター市場(飲料水市場)は拡大を続けています。
2014年には1200億元ぐらいだったのが、2019年には2017億元ににまで拡大しており68%も増加しています。2014年~2019年の年間平均成長率は13.6%と高い伸びとなっています。そして、2019年から2024年の5年間も同じように高い成長性を維持すると見込まれており、5年間で67%(年間平均13.4%)の伸びが想定されています。
中国ではボトル入り飲料水の市場が日本や欧米と比較するとまだまだ普及しておらず、日本や欧米の消費量を大きく下回っている事から今後も安定した成長が見込めると想定されています。
成長性が見込まれる業界だという事で、当然ながらミネラルウォーター市場には相次いで企業が参入しており、一時は300社近くの企業が参入するなどの群雄割拠の状態となっていました。今は比較的落ち着いてきており、上位陣は固定されつつあります。
300社も参入するって中国らしいね
誰でも儲かりそうな感じだったんだろうね
ミネラルウォーター市場の業界トップ企業は、農夫山泉で20.9%、次いで華潤怡宝が12.6%、娃哈哈が7.8%、康師傅が7.5%、百歳山が7.3%となっています。その他は、数パーセント程度の小規模メーカーとなっています。
農夫山泉(ノンフ・スプリング)の強み
中国のミネラルウォーター市場は、農夫山泉がトップシェアを確保しており、10年連続で中国ミネラルウォーター市場でトップシェアを守っています。農夫山泉はなぜミネラルウォーター市場でトップシェアをとる事が出来たのか?
それは、綺麗な水源地を沢山確保していたからです。
中国のミネラルウォーターは、多くのメーカーが水道水を浄水したものを販売しています。業界2位の華潤怡宝も業界3位の娃哈哈も業界4位の康師傅も、水道水を浄化した飲料水(純浄水:ボトルドウォーター)です。
一方で、農夫山泉は水源地から採取しているナチュラルミネラルウォーターとなっています。水源地から汲み取り、濾過を行い、人工のミネラルを一切添加していません。
一般的にミネラルウォーターとして売られている飲料水は、実はその加工処理の方法によって分類が異なります。水道水を浄化したものはボトルドウォーターと呼ばれるものになります。
ミネラルウォーターって全てが天然水だと思ってたよ
実は、色々と作り方があるんですよね
ナチュラルウォーター
天然の原水をそのまま生かして、加熱や濾過などの最低限の加工処理のみ行う
ミネラルウォーター
加熱や濾過などに加えて、人工のミネラルなどを加えて販売する
ボトルドウォーター
原水を加工したり、混ぜたりして、原水の性質を大きく変更して販売する
(つまりは水道水を加工して販売してもOK)
多くのメーカーは、水道水などを浄化処理してミネラル分などを人工的に加えたりしてミネラルウォーターとして販売しています。中国の業界2位~4位のメーカーは、この水道水を加工したボトルドウォーターとなります。
一方で、農夫山泉は天然の水源地から汲み取った原水を採用しています。なので、他の上位メーカーと比べると品質・ブランド力があるという事になります。
ただ、一般的には天然の水源地から取ったミネラルウォーターと水道水を加工したボトルドウォーターとでは、販売価格が大きく異なり、価格競争に敗れてしまいます。飲料水は、水という味に大きな差が出ない飲み物である事からどうしても価格競争になりがちです。ゆえに中国の業界大手も水道水を加工したボトルドウォーターを採用しているのですが、それにも関わらず、農夫山泉のミネラルウォーターは高過ぎることなく、比較的手ごろな値段で販売しています。
なぜに農夫山泉はナチュラルミネラルウォーターを比較的低価格で提供できるのか?
それが、水源地を10か所も確保しているという事です。中国で水源地を押さえるには(確保するには)、政府からの許可が必要であり、時間も労力も多大に掛かります。なので、同業他社で水源地を押さえている企業でも通常は水源地を1~3か所程度保有しているぐらいです。しかし、農夫山泉は10か所も水源地を確保しているのです。
農夫山泉の水源地
それぞれの地域に、それぞれの水源地を確保している事から、国土が広大な中国においては工場から直接都市部に輸送するコストが大幅に削減される事になります。これにより、水源地から採取している高品質なナチュラルミネラルウォーターを低価格で販売する事が出来るようになっているのです。
農夫山泉が強いと言われている大きな理由の1つが、高品質なナチュラルミネラルウォーターを低価格で販売出来ており、「大自然の運び屋」というキャッチフレーズを使いながら、それをブランドイメージとして浸透させているという点にあります。
高い粗利益率
農夫山泉が強いと言われてる大きな理由の1つに、高い粗利益率があげられます。
ライバル企業の粗利益率が30%程度なのに対して、農夫山泉の粗利益率は55%~60%ぐらいあります。圧倒的に粗利益率が違いますよね。
粗利益が約60%もあるなんて凄いよね
天下のコカ・コーラ社に肉薄するぐらいの粗利益率だね
農夫山泉の粗利益率
2017年 60.5%
2018年 56.5%
2019年 60.2%
2020年 59.0%
2021年 59.5%
農夫山泉がこれほど高い粗利率をあげられるのは、優良な天然の水源地を沢山確保しているからである。水源地を確保してしまえば、ランニングコストはそれほど高くないので、製造原価の安い飲料水は安定した利益を取る事が出来ます。そして、その水源地を中国全土に10か所確保しており、上海や北京などの大都市圏近くにも水源地を構えている事から輸送コストを大幅に引き下げる事が出来ているのです。
創業当初は浙江省の千島湖しかなかった水源地をその後は次々と拡大しており、吉林省、湖北省、広東省、四川省、河北省などでも採水するようになっています。
天然のミネラルウォーターを販売しているというブランド力と、多くの水源地を確保する事によるコストダウンによって、農夫山泉は高い粗利益率を保つ事が出来ているのです。
農夫山泉の業績
ここからは、農夫山泉の業績を確認していきたいと思います。
その前に、セグメントの確認をしておこうと思います。農夫山泉の事業内容は5つに分類されています。
「事業内容(売上比率)」
〇 飲料水事業 (57.4%)
〇 茶系飲料事業 (15.4%)
〇 機能性飲料事業 (12.4%)
〇 果汁飲料事業 (8.8%)
〇 その他の事業 (6.0%)
飲料水事業である天然水の製造・販売が主力事業ですが、それに特化している訳ではなく、売上の40%は飲料水以外の茶系飲料や機能性飲料になっています。年々少しずつですが売上に占める飲料水事業の割合は減少してきており、事業の分散を図っている過程にあります。
では、全体の業績を確認したいと思います。
年度 | 売上(伸び率) | 営業利益(伸び率) | 純利益(伸び率) |
---|---|---|---|
2017年 | 174億9121万元 | 44億4335万元 | 33億8040万元 |
2018年 | 204億7504万元(17.0%) | 47億6735万元(7.2%) | 36億0605万元(6.6%) |
2019年 | 240億2104万元(17.4%) | 65億1428万元(36.6%) | 49億4856万元(37.2%) |
2020年 | 228億7729万元(-4.7%) | 70億6521万元(8.4%) | 52億7742万元(6.6%) |
2021年 | 296億9640万元(29.8%) | 94億0724万元(33.1%) | 71億6179万元(35.7%) |
2022年(予測) | 335億3032万元(12.9%) | 104億1914万元(10.7%) | 79億3649万元(10.8%) |
2023年(予測) | 395億3598万元(17.9%) | 114億3750万元(9.7%) | 94億7730万元(19.4%) |
売上や利益は順調に成長している企業となります。流石にコロナ禍の2020年度は売上が前年対比で一桁台のマイナス成長となっていますが、それでもその年の営業利益や純利益はプラス成長と健闘しています。基本的には売上や利益をコンスタントに二桁成長していくポテンシャルを持っている企業だと思います。
IT企業並みの売上や利益の伸び率だね
それゆえに人気が高過ぎる結果となっているんだけどね
手堅く二桁成長をする企業だと想定されている事から株価水準は非常に高く、PERは実績で60倍、2022年度決算の予測値で55倍となっており、高値圏での取引となっています。
農夫山泉が上場したのは、2020年9月と比較的最近になってから上場しました。上場の頃から人気が高く、公募の段階で倍率が1150倍となっており、IPO当選確率はプラチナチケットとなっていました。調達額は6710億香港ドル(約9兆5000億円)で、香港市場史上最高額となっていました。
公開価格は21.5香港ドルだったのに対して、上場初日の初値は39.8香港ドルと85%も上昇しており、人気の過熱とPERの高さからバブル的な人気状態であるとの懸念も持ち上がっていました。
上場にて得た資金である1100億元を活用して、中国国内の工場の年間生産能力を2割増強を図り、国内需要の拡大に対応するとしています。また、後々には海外進出も手掛けていくと表明しています。
まとめ
農夫山泉は、中国において順調に成長しているミネラルウォーター市場でトップシェアを誇っているリーディングカンパニーであり、今後も手堅く成長していく事が予測されている企業です。
水源地を数多く押さえ、水道水ではなく天然水によるミネラルウォーターを手掛ける事で健康志向・自然志向のイメージ戦略によってブランド力を構築しており、都市部に近い水源地を確保している事から輸送費などのコスト削減によって高価格帯ではなく手ごろな価格でミネラルウォーターを提供する事が出来ており、国民的なミネラルウォーターとしての地位を確立しています。
ブランド力と品質を併せ持ち、手ごろな価格設定によってミネラルウォーター市場のトップシェアを10年間維持しています。
また、近年は飲料水以外の事業にも力を入れており、健康志向の時流にのって無糖・ゼロカロリーの茶系飲料である「東方樹葉」シリーズが大ヒット商品となったりと商品の多角化を進めています。
今後も順調な成長が予測されていて、売上や利益の成長性も二桁成長が期待されており、IT企業並みの高成長を望まれています。ゆえに株価水準は高値圏であり、少しでも業績悪化があれば株価は大きく下落するリスクがある事から、安定した成長を続けていける事が私達が投資をする上での前提条件となっています。
国内の需要を取り込む事での成長性だけでなく、海外進出が上手くいくようであれば大きく化ける可能性がある企業でもあることから、そういった期待の先取りも含まれていると思われます。
近年、サッカーワールドカップなどの世界的な大会やオリンピックなどで中国企業がオフィシャルスポンサーとなる事が増えており、2022年にドバイで行われたサッカーワールドカップでも中国の乳飲料メーカーがオフィシャルスポンサーとなって知名度向上に努めている事から、農夫山泉もいずれは世界的なスポーツイベントのオフィシャルスポンサーとなって世界進出の足掛かりとしていく事になっていくでしょう。
国内において手堅い成長性が見込めるミネラルウォーター市場にてリーディングカンパニーであり、順調な売上・利益成長が見込める農夫山泉は今後注目の企業の1つだと思います。
コメント
コメント一覧 (2件)
香港に34年住みました。香港人の親友の一人が「中国の水関係だけは止めとけ」と何度も言ってました。中国人(政府)は水の大事さを身に染みて知ってるから、絶対外国人が儲かるようにはしない、と。日本にいると水は潤沢にありますが、それは例外的ですね。農夫は中国では欠かせないブランドですね。当然政府筋にそれなりの「貢献」をしていると思いますが、どこかで逆回転しないかだけが心配ですね。
おはようございます、kizaさん。
日本は本当に水資源が豊富ですよね。
日本に住んでいると当たり前のように水が無料で飲めるし、飲食店でも綺麗な水が提供されますね。
農夫が儲かり過ぎてしまうと政府に目を付けられてしまうかもしれませんね。
それを避けるために、社会貢献や災害時の寄付などを行って公式サイトなどでもそれを掲載して「共同富裕」に貢献している事をアピールしているんだろうなと感じます。
「出る杭は打たれる」みたいな感じで政府の目に留まる事だけは避けて欲しいなと思っています。