少し前のブログ記事でプロスペクト理論について書いていました。投資と行動心理学は深い関係があり、人の心が投資行動に与える影響は非常に大きいと思います。
論理的に行動するよりも心理面に行動は大きく左右される事から、投資は自分との戦いとなります。自分の心理をいかに平穏に保つ事が出来るかという事が投資における重要なファクターだったりします。
自分の心を制したものが投資を制すると言えると思います。
そこで心理面を理解するのに重要な行動心理学をもう少しご紹介したいと思います。
行動心理学には、いつかの事例があり、今回はコンコルド効果についてお伝えしようと思います。
コンコルド効果とは
コンコルド効果とは、失敗した事業や成功の見込みのない投資なのに、今までに使ったお金の総額やつぎ込んだ資金量、費やした時間を考えると勿体ないという気持ちが大きく芽生えてしまい、引くに引けなくなってしまって、ダメな事業や投資をそのまま問題を先送りして継続してしまう事です。
これにコンコルド効果という名前がついているのは、コンコルドの失敗が名前の由来だからです。
皆さんは、コンコルドという夢の超音速旅客機をご存知ですか?
コンコルドって鳥?
年代が分かってしまうね(^_^;)
20代ぐらいの若い方はコンコルドを知らない方も多いのではないでしょうか。30代の方でも知らない人が多いかもしれませんね。
私は40代なのですが、私達の世代は丁度子供の頃にコンコルドの現役時代を知っており、夢の超音速機として記憶に残っているのではないでしょうか。私もいつかはコンコルドに乗りたいと子供心に思ったものです。
コンコルドは、マッハ2の超音速で飛行していた商業旅客機です。
現在のジャンボジェット機の速度は音速0.85ぐらいです。つまり現代の最速のジェット旅客機でもマッハ1以下なんですよね。今のジャンボジェットの速度の2倍以上の超音速で飛行していたのだから驚きの高速度です。
英国のロンドンと米国のニューヨークをジャンボジェット機で飛行すると約5時間ぐらい掛かります。これがコンコルドだと約3時間でロンドン・ニューヨーク間を飛ぶことができるんですよね。めっちゃ速いですよね。
時間は有限であり、時間こそ価値のある資産でもある事から、目的地に早く着くことは非常に大切な事です。でも、超音速で飛行できたコンコルドは時代と共に廃止されてしまいました。
今の技術でもマッハを超える音速旅客機を製造する事は簡単に出来ます。ただ、商業的にとなると難しくなるのです。
コンコルドは、速度を重視するゆえに機体は細長く空気抵抗を少なくする設計になります。必然的に搭乗客数は少なくなってしまいます。だからこそ、コンコルドの旅客運賃はファーストクラスよりも高い価格設定となっており、富裕層をターゲットとしていましたが、効率は非常に悪い機体となっていました。
また、超音速で飛行する事から空気との摩擦で生まれる騒音はソニックブームと呼ばれ、超音速飛行による衝撃波が引き起こす空気振動は爆音を発生させ、大音量の落雷のような騒音が生まれる事から環境問題も引き起こしていました。
- 乗客数の少ない機体
- 高額な搭乗料金の機体
- 騒音をまき散らす機体
- 経営効率が非常に悪い機体
商業的には失敗している事が明らかになっても、高額の研究開発費・多額の製造費などが重荷となり、運行廃止の決定がズルズルと先延ばしにされてしまいます。
そして、墜落事故を起こしておらず安全神話を持っていたコンコルドも2000年に墜落事故を起こしたことで、安全性・収益性・環境性を考慮して、結局は運行が廃止となるのでした。
それでも、私達の子供心には今のどっぷりと太ったような形をしたジャンボジェット機のような機体構造ではなく、スリムで尖っているコンコルドの近未来的な機体構造は憧れを抱かせる存在であり、ファーストクラス以上の搭乗価格帯で富裕層しか乗れない夢の旅客機、マッハを上回る超音速のマッハ2を叩き出す唯一の存在として、神格化されていたと思います。
いつかは、あの憧れのコンコルドに乗りたいとずっと思っていました。
そんな時代の寵児であり、時代と共に消えたコンコルドの失敗を元にコンコルド効果と名付けられています。
コンコルド効果の具体例
このようにコンコルド効果とは、上手くいく見込みがなくなったのに今までつぎ込んんだ資金や時間・人員が無駄になってしまう事を恐れて、そのまま事業や投資を継続してしまい中止する決断を下せなくなってしまう事です。
コンコルド効果は、サンクスコスト(埋没費用)効果とも言われており、サンクスコストとは今行っている事業や投資が上手く行く見込みがないから徹底するとした場合に発生する損失(回収する見込みのない資金)の事で、サンクスコストが気になって撤退できない事からサンクスコスト効果ともいわれています。
我々の日常生活にもコンコルド効果は身近に存在しますよね。
一番分かりやすいのはスマホゲームの課金だと思います。
スマホゲームの課金って、本当にうまく出来ていますよね。無料でゲームが出来て、基本的には課金しなくてもゲームは出来るんですよね。でも、他人より強くしたりとか、ゲームを早く進めたり、有利に進めようと思うと、課金した方が効率が良かったりするんですよね。
そうなると、「少しだけなら課金してもいいか」と思うようになってしまうんですよね。昔は、ゲームソフトを1本買うのに高いものだと1万円ぐらいしたことを思えば、月に1000円ぐらい課金しても大したことないと感じてしまいます。
でも、毎月たったの1000円だったとしても、1年間かければ1万2千円となり、昔の高かったゲーム代を超えてしまうのだから、分割支払いなどの分けて支払う時の金銭感覚のマヒって怖いものがありますよね。
このスマホゲームの課金は、「少しだけならいいか」と思わせてしまう手軽さがある反面、ここにコンコルド効果が重なると重課金へと突き進んでしまう事になってしまうんですよね。
大抵のスマホゲームは、レアキャラがあって、レアキャラやレアアイテムを引くことで強くなったり有利になったりするようになっています。もちろん、レアなので課金してもなかなか当たらないです。
でも、課金したのに当たらないと、「もう少しだけ課金しようかな」という気持ちがまた沸々と湧いてきて、更に追加投資してしまいます。こうなると、次は「もう何度も抽選を引いたのだから、そろそろ当たるかも」という淡い期待に変わっていき、次第に「これだけ引いたのだから次は当たるはず」とドツボに嵌っていきます。
そして、最終的には「これだけ何度も何度も引いたのだから今やめたら勿体ない。これだけやれば確率的にはそろそろ高確率でレア物が出てくるはず」と確率と統計を無視した自分に都合の良い結果を信じ込んでしまう事になります。
サンクスコストを捨てきれず、諦めきれない事によって、コンコルド効果が最大限発揮される典型的なパターンですよね。
まあ、偉そうなことを言いながらも、私もスマホゲームで課金をしたことがあります(笑)。
ポケモンGOってスマホゲームをご存知でしょうか?
ポケモンを捕まえるゲームなのですが、色違いのポケモンはレアものになっており出現率が低いです。ただ、イベント時は出現率が高くなっています。そして、地域限定の強いポケモンがイベント時にだけ出現する事があり、それを捕まえるためにはチケットが必要となります。
1日1枚無料でチケットが配布されるのですが、そう簡単に1枚だけで捕まえる事は難しいです。そうなると、色違いの地域限定ポケモンが欲しいと、チケットを追加で買って何匹も捕まえないと色違いが取れません。
前に、海外にしか出現しないポケモンがイベント時に捕まえる事が出来て、1日1枚だけ無料でチケットをくれましたが、当然ながら1枚で色違いのポケモンは捕まりません。
確率的に20回捕まえれば、1回は色違いが取れる確率になっているのですが、あくまでも確率なので20回やれば捕まえれるわけではないです。
色違いの海外のポケモンが欲しかった私は、迷いもせずにチケットを追加で購入したのですが、捕まえても捕まえても色違いは出ません。20回超えても、30回超えても、色違いは出ません。
- 確率的にはもう出るはずだ
- ムダ金にするぐらいならば捕まえるまでやるべきだ
- これだけチケット買ったんだから、捕まえないと気が済まない
え~、典型的なダメなパターンですよね(笑)
結局、チケットを40枚買って捕まえたけど色違いは捕まらず、ほどほどで辞めれば良かったと後悔しました。
コンコルド効果恐るべし(笑)
企業運営とコンコルド効果
企業の運営においてもコンコルド効果は時折見られますよね。
企業の新規事業などはコンコルド効果に陥りやすいです。新しく始める事業なので、バラ色の未来しか想定していない事が多いです。まあ、新規に始める事業について上層部の許可を取るためには、それ相応の利益が見込めるというプレゼンが必要であり、そうなると多少盛ったプレゼンになる事は仕方がない事でもあるかもしれないんですけどね。
「需要がこれだけ拡大するから投資する価値がある」「今のうちにシェアを取っておけば、利益は後からついてくる」と強気な設定でガンガンと突き進んでいく事も多いです。
でも、時にはイマイチ利益の取れない事業もあるだろうし、思ったような需要や想定していた相乗効果が得られない事もあります。そうなると、早々と撤退した方がいいのですが、そういう訳にもいかない事がありますよね。
- 今更赤字で終る訳にはいかない
- 成果が出ないうちに撤退なんか出来ない
- まだ諦めたらダメだ。根性で粘れば何とかなるはず
- これだけ資金をつぎ込んだのだから成功しないといけない
- 誰かが責任を取らないといけなくなるから後戻りできない
こうやって文字で書くと、これはダメだろうとすぐに分かるのですが、実際に仕事をしていると分かっていてもすぐには対応できないケースがありますよね。
ダメならダメだとサッと手を引くことも大切な経営判断なのですが、責任の所在を求めるようになると途端にその判断は難しくなりますよね。特に大きなプロジェクトなどになると中止した場合の損失の方が継続した場合の損失よりも少ないと思えるのに辞められない事も時としては在りますよね。
損失を確定させても、中止した方がいい事も当然ながらありますが、それを実際に実行するとなると難しい事でもあります。
そういう面で考えると、アマゾンという企業は凄いなと思ってしまいます。
豊富な資金力をバックに、新しいものには次々と首を突っ込んでいきます。でも、上手くいかないなと思うと、サッサと手を引くんですよね。大金をつぎ込んで、他社を巻き込んで広げていこうとしていても、将来的な見通しが良くないと判断すれば、将来性が有望だと判断した新規事業であったとしてもスパッと切る事が出来るのがアマゾンです。
最近だと、アマゾン・ケアの事業展開を中止しましたね。将来有望な遠隔医療として大企業をベースにしたアマゾン・ケアは今後更に事業を拡大していくものと思われていましたが、将来の見通しが暗いと判断するやいなやスパッと事業の中止して撤退を決定しました。
過去には、「ファイヤフォン(アマゾンスマホ)」を開発・販売したものの、イマイチ振るわず、あっという間に撤退しています。「アマゾンブックス」という本の実店舗も撤退しています。本業とのシナジー効果がありそうな「アマゾンオークション(オークションサイト)」や「アマゾンローカル(レストラン予約宅配サービス)」など、他にも色々なサービスを立ち上げては、成長性や採算が合わないと判断すると、スパッと撤退していきます。
日本では失敗を恐れる風潮があり、失敗は恥だという雰囲気もあります。しかし、アマゾンでは失敗を恐れずにチャレンジする事が大切であり、失敗を通して新たな学びを発見して次に繋げていきます。
チャレンジする事で大きなチャンスを掴むこともあります。AWS(クラウド事業)などはアマゾンのチャレンジ精神が生み出した打ち出の小槌ですよね。
新しい事に次々とチャレンジをして、上手く行きそうになければサンクスコストを気にせずに撤退する。
コンコルド効果を乗り越えていくアマゾンは、やはり世界でも稀有な存在なのかもしれませんね。
コンコルド効果と投資
私達の投資行動にもコンコルド効果は時折みられますよね。
- 明らかに高値で買ってしまっている
- 確実に業績が悪化する企業を買っている
- 損失が出ても塩漬けしたままで動けない
「これだけのお金をつぎ込んだのだから損失を出して逃げる事なんて出来ない」と思ってしまったり、「これだけ長い期間(時間)を我慢してホールドを続けていたのだから、今更見限る事なんて出来ない」と思って、ずっと値上がりしない銘柄を持ったままだったりする事がありますよね。
何でもかんでも損失が出れば見切りをつけて損切りをすればいいとは思っていませんが、「何時まで経っても保有を続ければいい」「どれだけ損失が出ても保有を続ければいい」「どういう状況であったとしても保有を続ければいい」、何でもかんでも保有を続けていけばいいというものでもないと思います。
自分なりの基準を決めておいた方がいいと思います。
- ルールを定めておく
- 撤退地点を決めておく
- 一定レベルに達すれば損切りする
- 保有を続けるものを決めておく(損切りしないものを決めておく)
コンコルド効果に陥ってしまわないように、何か自分なりの基準を決めておいて、そこに達すれば自動的に(機械的に)撤退するなどの行動を取るようにしておけば、想定以上の損失を被る事も少なくなると思います。
投資には心理的な面が大きく左右されます。
どうしても熱くなったり、損失をとり戻そうとする気持ちが芽生えてしまいます。
それをどうコントロールしていくのかが投資を成功を左右していくコツになるのではないでしょうか。
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