5年に1度開催される中国共産党大会が終わりました。中国の今後を考えるうえで非常に重要なこの会議において中国の成長性が阻害されそうな気配が漂ってきていました。
巨大な人口を有して世界第2位の経済大国にまで上り詰めた中国も、かじ取りを誤れば大きく失速する可能性があります。大きく成長する可能性がある反面、長期的な低迷期へと変換する可能性がある中国。
その岐路にいま立っているのだと思います。
中国の集団指導制
中国は共産党が政権を担っており、政府よりは党の方が権限(権力)があるという独特の運営となっています。
日本の場合だと、政府が国のトップであり、政党はそれを支えるものですが、中国の場合は政党(共産党)が国を支配しており、政府は共産党から選出されるただの役職という感じです。
ゆえに、党大会は国家運営において非常に重要であり、5年に1回行われる中国共産党大会は中国という国の政治体制や権力体制を決める重要な行事となります。
米国・欧州・日本のような資本主義社会ではないのに、国際社会から一定の信用を得ているのも、中国は集団指導体制であるという点が少なからずあります。
中国では、7人の最高指導部(政治局常務委員会)が国のトップを担っています。そして、合議において国の運営を定めています。共産党という強い権力を有しながらも、個人への権力の集中を防ぐために、党幹部は共産党大会開催時に68歳になっていれば引退する事になっています。また、国家主席などの権力者も2期10年でその座を退くことになっています。これらによって、権力の集中を防ぎ、独裁国家へと進まないように配慮されていました。
中国が集団指導体制を取っているのは、過去の独裁政権によって混乱を招いた反省から個人への権力集中を防ぐために導入されています。
現代の中国を作った毛沢東は、その権力・個人崇拝を利用して文化大改革を起こし、多くの文化人やライバルの政治家を処分しました。これによって中国は政治的にも経済的にも硬直した時代を送る事になります。こうした苦い歴史を反面教師として、個人崇拝や個人への強い権力を与えないために、権力者は2期10年まで、定年を68歳と定めていたのです。
権力の集中への懸念
習近平氏が権力を握り始め、そしてドンドンとその権力を拡大していく事は以前から確認できました。
従来は、国家主席は2期10年で降りるという事になっていましたが、習近平氏は2018年に憲法に条文に記載されていた2期10年という国家主席の任期を撤廃して、憲法の条文から削除する事を実行しました。これにより習近平氏の3期目継続が濃厚となっていました。
3期目を続投する可能性が高まったという事だけでも、権力が強まっている(集中している)とも言えるのですが、それでも習近平氏とは距離をおく権力者も存在しました。それが前の国家主席であった胡錦濤氏です。すでに高齢のため最高指導部などからは退いていますが、その派閥はいまだ存在しており、その流れを組む者には、中国No2の序列に位置していた李克強首相や胡春華副首相などがいました。
習近平派以外にも異なる派閥がある事から、権力の集中も一定の歯止めが掛かっているといった状態でもありました。そして、習近平氏が3期目に突入したとしても李克強氏などが一定のブレーキ役になるのではと考えられていました。
ところが今回の人事では、序列No2であり、最大のライバルとも言える李克強氏は最高指導部から引退させられてしまいます。党内の序列上位200位以内の中央委員にも選出されませんでした(最高指導部の役職は中央委員の中から選ばれる)。李克強氏は習近平氏に唯一対抗できる人物と言われていましたが、その最大のライバルは不在となるのです。
党の最高指導部の定年は68歳であり、67歳だった李克強氏が指導部から引退するにはまだ早い年齢です。それにも関わらず、党の最高指導部から退くのは習近平氏による圧力なのでしょうね。そして、当の習近平氏は定年の68歳を超えた69歳になっているにも関わらず、最高指導部に留まり国家主席3期目に就任する事になりました。
李克強氏は、来年3月の全人代(中国の国会に相当)で首相を退任後は国家副主席に就任するかもしれないと言われています。現在国家副主席である王岐山氏も中央委員を退いてから国家副主席に就任しており、王岐山氏はすでに高齢なのでこの役職を李克強氏が継ぐのではないかと言われています。
国家副主席というと中国政府の中では国家主席の次ぐポストとも言えるので重要な感じがしますが、中国の場合は共産党が政府よりも上位に来るため、力関係や権限の強さは「共産党の役職>政府の役職」となります。ゆえに、最高指導部でもなく、中央委員にも名を連ねていない国家副主席のポストは名誉職に近い形となり、あまり権限はないみたいです。
この名誉ポストすら与えられなければ、習近平氏は完全に外敵を排除した形になるでしょう。
中国の最高指導者は、共産党最高役職の「総書記」と政府最高役職の「国家主席」を兼任します。習近平氏は、5年に1回開催される中国共産党大会で序列1位が確定した事から、共産党最高役職の「総書記」に就任する事が決定し、それに伴い「国家主席」も兼任する事になります。従来であれば、国家主席は2期10年で退くという憲法上の決まりがありましたが、それを廃止している現在では今後も継続して国家主席に留まる事も可能となります。
3期目の国家主席に就任するにあたって、権力を維持するために政敵は排除していきました。李克強首相の指導部からの引退がもっとも印象的だったのですが、他にも李克強首相と同じように前国家主席の胡錦濤派と言われている胡春華副首相も党序列上位24人の政治局員から外れました。胡春華副首相は実力からすると、党最高指導部入りが有力視されており次期首相候補だったにも関わらず、最高指導部(7人)どころかその下位に位置する政治局委員(24人)すら外れました。
また序列4位だった汪洋全国政治協商会議主席(胡錦濤派)も最高指導部から引退させられました。李克強首相も汪洋全国政治協商会議主席もまだ67歳なので定年にはなっていませんが、引退せざるを得ない展開となりました。
また、今回非常に興味深かったのは全国共産党大会閉会式での出来事ですよね。
長老と呼ばれている前国家主席の胡錦濤氏が党規約の改正案などが採決される前に退席しました。退席の際には、係員に両腕を掴まれて退席させられているように見えたことから退席を拒否したけど途中退席させられたように感じられました。党大会の公式行事での途中退席は異例中の異例です。
実際に、習近平氏の指示で退席させられたのか、それとも体調不良で退席したのかの真相は藪の中です。本当に体調不良だったのか、それとも違うのかは分かりませんが、習近平氏の指示での退席が事実だったとすれば、かつての権力者である前国家主席でさえ恥をかかせて退場させれるほどの権力を有する程になっているということになります。
政敵を追い落とし、子飼いの部下を引き上げて権力を固め、習近平氏の独裁体制はいよいよ本番を迎えつつあります。
新たな政権の発足による懸念
今回の人事で、最高指導部(政治局常務委員会)の7人に新しく加入した中でも注目されているのが上海市トップをやっていた李強氏です。
上海はゼロコロナ政策で市民の強い批判を浴びており、住宅街への視察の際に住民に強く詰め寄られた動画が拡散されるなどマイナスイメージが付いてしまっており、今回の人事では昇格は難しいのでは言われていたのですが、結果は習近平氏に次いで序列2位となっており、習近平氏の側近として強く引き上げられたのです。
この李強氏は、次期首相になるのが濃厚(首相は序列2位~4位から選ぶのが通例)とされているのですが、中央政府での実務経験がない人が首相になるのは異例中の異例とされています。従来では副首相経験者が繰り上げ起用されていたのですが、中央政府の実務を経験していない李強氏が首相に就任するのであれば、習近平氏の権限の強さが際立つ結果となりますね。
ゼロコロナを強く推進している上海のトップが国のトップに就任する事が濃厚であることから、今後もゼロコロナ政策を続けていく可能性が高くなります。
中国の経済活動は、今後も制限された状態が続く可能性があるという事になります。
中国共産党の最高指導部の7人にうち、習近平派と言われるのは本人を含めて6人となっており、ほとんど習近平氏の子飼い部下が就任する事になっています。最高指導部の下にある24人の政治局委員でみても24人中19人が習近平派となっており、ほぼ権力を完全に手中にいれたといってもいいと思います。
ちなみに、10年前の最初の国家主席就任の際の習近平派の人数は政治局委員24人中5人だったのが、5年前の2期目の国家主席就任時には政治局委員24人中15人になり、徐々に味方は増えていき今回は19人と8割を占めるようになっています。
「中国共産党の最高指導部(政治局常務委員)の7人の派閥の歴代内訳」
序列 | 2022年 | 2017年 | 2012年 |
2位 | 李強(習派) | 李克強(共青団) | 李克強(共青団) |
3位 | 趙楽際(習派) | 栗戦書(習派) | 張徳江(上海閥) |
4位 | 王滬寧(無派閥) | 汪洋(共青団) | 兪正声(無派閥) |
5位 | 蔡奇(習派) | 王滬寧(無派閥) | 劉雲山(上海閥) |
6位 | 丁薛祥(習派) | 趙楽際(習派) | 王岐山(習派) |
7位 | 李希(習派) | 韓正(無派閥) | 張高麗(上海閥) |
イエスマンが周囲に固まる事で、習近平氏の意見に逆らうものや、忠告をする人がいなくなっていき、独裁的な国家運営に傾いていく危険性が非常に高くなっています。
こういった事が政治や経済の停滞をうみ、他国との軋轢を広げかねないです。
一番不安視されているのが、台湾への侵攻や併合といった強硬手段に出る恐れがあるという事ですよね。
今回の共産党大会でも「台湾独立に断固として反対し抑え込む」という文面を盛り込んで台湾独立を許さずに将来的には台湾併合を視野に入れている事を強く印象付けていました。
習近平氏は中国を建国した毛沢東を超える事を意識しているのではと言われており、毛沢東に与えられていた「党主席」や「領袖」という名称を自分に使う事を目論んでいたようですが、今回は見送られたようです。
「党主席」は、かつて中国共産党の存在した最高権力者であり現在は廃止されています。すべてにおける最終決定権を持ち、任期はなく終身制も可能である。まさに独裁ポジションとも言えます。毛沢東の死後、このポジションは廃止されました。
「領袖」は中国における指導者の名誉的な称号でもあり誰でも名乗れるわけではないようです。現代中国において「領袖」を名乗れたのは毛沢東と華国鋒の2人だけであり、個人崇拝に近くなることから「領袖」の称号を使用する事を懸念する長老達が多いといわれています。
「党主席」も「領袖」も、どちらも強い権限と個人崇拝を伴う事から現在では使用されていませんが、習近平氏はこれを復活させて、自らの権限を高めて更に台湾を併合する事で、誰もなしえていなかった中国統一という野望を完成させることで名誉を手に入れようとしているとも言われています。
台湾に侵攻するとどうなるかは、今のウクライナの状況をみていれば分かると思うので、流石に無理に台湾侵攻をするとは思えませんが、イエスマンを固めた事より不測の事態が起こる可能性は否定できません。プーチン氏をみていれば分かるように、周囲がイイことしか言わないようになれば正常な判断すら困難になり、予期せぬ決断をする可能性は以前と比べると格段に上昇していると思います。
台湾侵攻が現実化すると、国際社会からの断絶やブロック経済の復活などの中国経済への深刻なダメージが想定されるのですが自らの理想や野望に身を焦がすと周囲も止められずに習近平氏に忖度してしまった結果最悪の事態へと進む可能性は否定できないでしょう。
そして、その忖度の片鱗は今回の中国共産党大会でも行われていたと思います。
中国共産党大会が行われている間に発表されるはずだった中国のGDPは発表が見送られました。今回のGDPの結果は経済の不振によってあまり良くない事が想定されていました。ゆえに、大会期間中に発表して習近平氏の門出に泥を塗る訳にはいかないという事で発表が延期されたのではないかと言われています。
結局、大会終了後に発表されていた7月~9月のGDPは前年対比で3.9%増加となっており、事前に市場が予測していた数値よりは上回っていましたが、従来の結果と比べると非常に低い結果であり、1月~9月では3.0%程度であり、通年で5.5%を達成するという目標をクリアする事は不可能になってしまいました。
今回GDPの発表が遅れた背景には、実際には更に悪い結果であったのを修正するために時間が必要だったのではとも憶測されており、1月~9月の累計でGDPが3.0%を切る事は許されない事から、それを切らないように苦慮していた可能性も指摘されています。修正が真実かどうかは不明ですが、GDPの発表を遅らせるという前代未聞の手法を使ってでも習近平氏に配慮する必要があった事は事実でしょうね。
中国株の危機
中国株には、かつてない強い逆風が吹いています。
今まで中国株に長く投資をしてきた私でさえ、ちょっと危ないなと感じるほどなので、かなりのリスクなのだと思います。
従来の集団指導体制を放棄し、習近平氏の独裁状態に移行していく事は、経済的にも政治的にも脅威でしかないです。
中国が今まで発展してきたのは、「富める者が先に富んでいき貧しき者を拾い上げていく」といった先富論によって、経済を発展させてその恩恵を分けていくという手法で、これにより経済発展を進めていき、その結果が世界2位の経済大国になるまでに発展したのです。そしてそれが今日のアリババやテンセントなどの世界に通用するIT企業の誕生をうんだのです。
習近平氏はこれをヨシとせず、「共同富裕」によって貧富の格差を是正して全ての人民が平等に富むことを強く求めています。「共同富裕」は元々は毛沢東が唱えたものであり、中国共産党にとっては基礎的な考え方でもあります。ただ、これを強く推し進めると経済は衰退していきます。
習近平氏は、「高すぎる所得を合理的に調節し、高所得層と企業が社会にさらに多くを還元することを奨励する」と発言しており、企業の経済活動は委縮する可能性があります。
現在、中国株が大きく下がっているのは、新指導部に習近平氏を諫めるライバルが駆逐され、イエスマンしかいない事から政治や経済のバランスを上手く取れなくなるのではと危惧されているからです。
もしも習近平氏が非常に有能な人物で、バランスを上手く取り、政治・経済共にうまくコントロールすれば権力の集中は逆に良い方に作用する可能性はあります。ただ、現状を見ている限りでは、党主席の称号獲得や台湾併合などの野望が見え隠れしており、変な方向性に突き進む可能性の方が高いように感じられます。
新しく決定された最高指導部(政治局常務委員会の7人)のメンバーは、いずれも次の5年後には定年を迎えます。通常は、この最高指導部から次の国家主席(後継者)を選ぶことになるのですが、5年後には皆が定年になるのであれば通例であれば次の国家主席はこの中から選べないという事になります。
唯一例外とされている習近平氏を除けば・・・
そうなると、習近平氏の4期目もあり得る事になります。というよりも終身制への布石とも言えるでしょう。
今後の中国株は、習近平氏次第と言えることになります。彼の思惑次第で、良いようにも悪いようにも転がっていってしまいます。
「中国株=チャイナリスク」ではなく、「中国株=習近平リスク」と言っても過言ではないと思います。
中国株は、今までのように中国という国としてのリスクではなく、習近平氏という個人の考え方へのリスクが非常に高くなっているのだと思います。
コメント
コメント一覧 (2件)
チャイナリスクに関するレポート大変勉強になりました。
中国株は大分前に処分してしまいましたが、万科企業は途轍もない大化けをして今の私を助けてくれています。
駄目だった銘柄もありましたが多くの株を長く持ち続けたので配当で潤うことができました。
今のような独裁者が居なくなってまた中国に目を向けることができたら良いですね。
いつも為になるブログをありがとうございます。
おはようございます。
いつもブログを読んでいただき、ありがとうございます。
私もテンセントが大きく成長して私の資産と人生を大きく変えてくれました。
中国株に出会えて本当に良かったと思います。
ただ、今後はどうなるのかは未知数で、以前よりもリスクが高くなっていると思います。
独裁的になった事が吉とでるか凶とでるかは、指導者次第です。
経済を優先するような対応をすれば強力に企業を後押しするだろうし、共同富裕を強く推し進めれば企業活動は委縮するでしょう。
また中国株に投資しやすい環境が戻ってくることを願っています。
今後も、ブログを読みに来てくださいね。