そろそろ提訴されると言われていた米連邦取引委員会(FTC)によるアマゾンへの反トラスト法(独占禁止法)。
先日、ついに米連邦取引委員会がアマゾンを提訴する事になりました。これによりアマゾンの株価は大きく下落する事となり、その日の株価は4%下落するなどの急落していました。アマゾンが提訴された26日はアマゾンの急落を筆頭に他の銘柄も大きく下げており、ダウやS&P500などの指数も1%以上も下落するという暴落状態となっていました。
アマゾンは独占企業なのかな
何を基準にするかで判断が分かれる事になっているみたいだね
果たしてアマゾンは独占企業なのか?そして、独占禁止法で提訴されたアマゾンの今後は如何なっていくのか?
今回のアマゾンが訴えられた反トラスト法(独占禁止法)の影響を考えていきたいと思います。
反トラスト法(独占禁止法)とは
そもそも反トラスト法(独占禁止法)って、どういったものなのだろうか?
米国の独占禁止法は、それ1つを単独的な法律で規定しているわけではなく、複数の法律の総称として独占禁止法(反トラスト法)と呼んでいます。
独占禁止法の法的根拠
- シャーマン法(1890年制定)
- クレイトン法(1914年制定)
- 連邦取引委員会法(1914年制定)
この3つを総称して独占禁止法と呼んでいるのです。
シャーマン法は、カルテルなどの取引制限及び独占化行為を禁止しており、それらの違反に対する差し止め、刑事罰等を規定しています。
クレイトン法は、シャーマン法違反の予防的規制を目的としており、競争を阻害する価格差別の禁止、不当な排他的条件付き取引の禁止、企業結合の規制、3倍額損害賠償制度などについて規定しています。
連邦取引委員会法は、不公平な競争方法及び欺瞞的な行為(人を欺く行為)などを禁止しているほかに、連邦取引委員会の権限・手続き等を規定しています。
連邦取引委員会法第5条では「不公平な競争方法」が禁止されており、シャーマン法やクレイトン法に違反する行為や慣行を不公正な競争方法として規制するだけでなく、初期の内にこのような行為を中止させる(初期のうちに連邦取引委員会法を執行する)ように規定されており、今回のアマゾンへの提訴もこれに沿ったものだと思われます。
アマゾンは、なぜ独占禁止法が適用された?
アマゾンは、自社のサイトで小売業者として商品を販売していますが、そのサイトを他社(外部の販売業者)にも開放して、他社もサイト上で商品を販売できる「マーケットプレイス」という仕組みを採用しています。
米連邦取引委員会(FTC)は、アマゾンが独占的なプラットフォーマーとしての影響力を利用して、外部の販売業者(サードパーティー)に対して威圧的に抑制を強要した事で訴えています。そして、それが消費者にとっても商品が割高になる要因となって消費者への不利益につながるというものです。
米連邦取引委員会は、大きく2点について反競争的だと指摘しています。
(1)外部の販売業者へアマゾン以外での値引きを禁止した
(2)アマゾンの物流システムや広告の利用を強要した
FTCの主張では、(1)についてアマゾンは、外部の販売業者が他社のサイトでアマゾンで販売するよりも安い価格で商品を販売していた場合に、アマゾンでの検索で目立たなくするなどの行為を行い、外部の販売業者に対して不利益を与える行為を行っていた。
(2)についてアマゾンは、販売サイトに出店している外部の販売業者に対して高額の手数料を請求しており、ビジネス継続を依存する何十万の外部の販売業者は月額の手数料に加えて、広告料などの支払いも求められる。多くの販売業者は、こうした費用の総額が総収入の50%近くに及ぶと指摘していました。
反アマゾンのカーン氏の念願の提訴とバイデン政権の狙い
米連邦取引委員会は、委員長を含めて5名で構成されており、任期は7年間となっています。合議制となっており、委員の選任は上院の承認を経て大統領が任命するのですが、意見の偏りを防ぐために、同じ政党に属する委員は3人までと規定されています。
米連邦取引委員会の委員長であるカーン氏は、法科大学院時代に「デジタル時代においてはアマゾンに反トラスト法を適用できる」という論文を発表しており、一躍注目を集めた人物であり、反アマゾンの急先鋒です。2年前に若干32歳という若さで米連邦取引委員会の委員長に抜擢されたカーン氏にとって、念願のアマゾン提訴となりました。
カーン氏率いる米連邦取引委員会は、アマゾンに限らず、マイクロソフトやメタなどの大手IT企業に対して訴訟を起こしており、大手IT企業に対して訴訟を起こす事で大企業側の自粛を促すと考えています。
訴えられた企業にとっては裁判費用や裁判による手間が非常に大きいです。米連邦取引委員会が相次いで大手IT企業を訴える事で、IT企業側が訴えられるリスクを考慮してM&A(買収・合併)を自主的に抑制しようとする効果があります。実際に最近の2年間では合併の件数は大幅に減っているそうです。
また、バイデン政権側もアマゾンを狙う思惑があります。
バイデン大統領は、政権発足後に巨大IT企業に批判的な学者や弁護士を米連邦取引委員会や司法省の幹部に相次いで登用していきました。これにより、中小企業や労働者の権利を守るという名目に従ってグーグルやメタなどの大手IT企業を独占禁止法の疑いで司法に訴えていきました。
ただ、これらの訴えは敗訴してる事が多く、メタが仮想現実スタートアップ企業を買収する件は2月に敗訴となり、マイクロソフトのゲーム大手のアクティビジョンに対する買収差し止め訴訟も裁判所によって却下されました。
現在、バイデン政権は巨大IT企業を取り締まる法律の制定を目指していますが、下院で多数派を占める野党の反対でとん挫しています。バイデン政権にとっては、IT企業への訴訟で敗訴が続けば続くほど、巨大IT企業を取り締まる法律が必要だという市民からの世論が高まると考えています。その為、カーン氏率いる米連邦取引委員会を後押ししています。
大手IT企業に対する訴えを起こす事が、2024年に実施される大統領選挙でバイデン氏が再選するための世論を高めるきっかけになると目論んでいるようです。
アマゾンの反論
今回の米連邦取引委員会の提訴について、アマゾンの法務担当デビッド・ザポルスキー上級副社長は次のように反論しています。
アマゾンは、外部の販売業者が競争力のある価格を設定して売上を増やしていけるように支援しており、これらの取り組みを辞めれば消費者の利益に反する結果となり、独占禁止法が定める消費者の保護という目標にとっては逆効果だと主張しています。
また、物流サービスについても、アマゾンの手数料は競合他社に比べて一般的な配送で平均3割、翌日配送などの場合では7割安いと主張しています。販売業者がアマゾンの物流システムを利用する事は強制によるものではなく、販売業者が自らアマゾンを選んでいると強調していました。
アマゾンは、基本的には米連邦取引委員会の訴えに対して争っていく姿勢のようですが、一応やんわりと妥協策を提示して実行していたりもしています。
アマゾンはマーケットプレイスを利用する販売業者に対して、アマゾンの物流システムを利用しない場合は販売手数料を高く設定する事を発表していましたが、これを撤回して物流システムを利用しなくても同様の手数料とする事にしています。
米連邦取引委員会が独占禁止法で訴える前に、このような独占禁止法に触れそうな事案を撤回する事で米連邦取引委員会が訴える事を避けようとする動きを見せていました。
独占禁止法の今後の行方
米連邦取引委員会に独占禁止法で訴えられたアマゾンの今後の訴訟の状況はどうなっていくのだろうか?
米連邦取引委員会の訴えが司法において全面的に認められるとの見方は少ないとされています。そもそもカーン氏が就任後に米連邦取引委員会が大手IT企業に対して起こした訴訟は負けが続いています。
米国の司法界隈では「経済的効率性が高まれば消費者にも恩恵が及ぶ」とする従来の考え方が根強く残っています。労働者や中小事業者などの弱者保護のために巨大IT企業を押さえつける手法のカーン氏らの考え方は非主流派となっています。
また、アマゾンの地位は独占的ではないという意見も多いです。先日の私のブログでも指摘しているように、アマゾンはEC分野においては約40%のシェアを取っており2位のウォルマートがたった5%程度のシェアしかない事からEC分野では独占的であると取れるのですが、小売り全体でみるとウォルマートの方が巨人で独占的であり、小売全体ではウォルマートのシェアが16%なのに対して、アマゾンは9%程度と一桁台程度に収まっています。
フロリダ大学のマーク・ジェイミソン教授は「消費者や販売業者には他の選択肢もあるなか、アマゾンが選ばれているにすぎない。米連邦取引委員会がアマゾンの解散を求めるような主張を通すのは難しいだろう」と指摘しています。
また、野党の共和党からも「相次ぐ大手IT企業の訴訟でも敗訴が続いており、負けが分かっているのに訴訟を起こす事は予算の無駄遣いだ」との批判が強まっています。
市場関係者からは、「米連邦取引委員会と司法省は、米国の競争力とイノベーションに害を及ぼすリスクを犯している」という意見も出ています。
まとめ
今回の訴訟の影響を受けて、アマゾンの株価は大きく下落しました。
訴訟を受けて、アマゾンは是正処置に伴うコストの増加や収入の減少への懸念が高まっています。独占禁止法での提訴によって、アマゾンは販売業者向けのサービスを拡大しずらくなり、手数料の引き上げなどが困難になっていきます。販売業者(サードパーティー)に対する物流システムや販売手数料による売上は、アマゾン全体の売上の25%を占めており、ここの収益性が減少する可能性があります。
ただ今回の訴訟では、カーン委員長が持論として展開していたアマゾンの分割については「構造的な救済処置」が必要となる可能性があると言及する程度になっており、反競争的行為の差し止めを求めるに留まっています。
アマゾンの販売業者に対する強気な姿勢は控える事になるとは思いますが、訴訟自体が全面的に認められるのは少々厳しいと思われ、米連邦取引委員会とアマゾンとの話し合い(駆け引き・協議)によって一定の妥協案で和解する事になるのではないかと思います。
さて、今回の内容は、YouTubeにもアップしています。動画でみると、ブログとは違う魅力などもあると思いますので、ぜひYouTubeの方も見てくださいね。
↓↓YouTubeはこちらからどうぞ↓↓
コメント